大西 真晶
2018年3月記述
注:私の研究については、ここをよく読んで(特に「本研究開発のモチベーションと提案の経緯」をよく読んで)、自衛隊用=軍事専用だという無知な思い違いからの短絡的な批判を行わないようにしてください。
名前 大西 真晶
役職 研究員
略歴 関西大学大学院総合情報学研究科で博士(情報学)を取得後、自身の理想とする超広域の防災情報通信システムの実現の為には本来の専門である分散空間データベースネットワークに加えて無線メッシュ網の知識が必要であると考えて、独立研究開発法人情報通信研究機構のネットワークアーキテクチャ研究室の無線メッシュネットワーク研究班に所属。ローカル無線メッシュ網であるNerveNetの研究開発に関わらせて頂き、とりあえずローカルで静的な無線メッシュ網の実研究開発に関する知見と知己を得る。2016年度から東工大、首藤研に移籍。研究員として動的なノードによる防災用超広域無線メッシュ網の検討を本格的に開始。現在に至る。
現在の研究テーマ:Inter mesh network構想の提案とその研究開発
Inter Mesh Network構想の概要
提唱するInter Mesh Network構想とは
- 様々な主体が運用する様々な種類の無線メッシュ網を直接結合して超広域メッシュ網を構成する構想
- 種々の無線メッシュ網の統一的な運用に寄与,超広域災害シナリオへの対応を可能とする
- 小規模ネットワークを結合して大規模化するという意味ではインターネットと同じ
- インターネット成立の為の様々な機構をより無線メッシュに合った形で再整理する研究分野になると予想されることから命名
本研究開発のモチベーションと提案の経緯
本研究の目的は主に超広域災害時に展開される消防、自衛隊、警察、自治体、医療施設、介護施設などが持つ公共性が高い車両群による超広域アドホック車両間マルチホップ無線網を構成可能とするという応用を目指したネットワークアーキテクチャであるInter Mesh Networkアーキテクチャを完成させることです。 このアーキテクチャは従来のアドホックなマルチホップ無線メッシュネットワークではカバーしてない応用をカバーする為に考案しました。 従来のアドホック無線メッシュネットワークの方式は多くの場合、動的なノードで大規模なネットワークを構成する為には設計されておらず小規模であることを前提に設計されています。何故、この様な状況にあるかはニーズ側からの視点とシーズ側からの視点の双方から理由を挙げることができます。 ニーズ側視点の理由としては特に日本国では、固定の無線インフラ設備が非常に発達しており、通信キャリアのサービス体制が国土全体に行き渡っていることが挙げられます。少々の障害や災害があったとしても即座にそれら通信キャリアの強力な復旧部隊が活動して短時間でサービスを復旧します。また事前に利用端末の分布傾向を分析して固定の基地局を必要十分な数展開しておけば、効率の悪いアドホックな無線ネットワークを広域展開するよりも長期的に見ればローコストで遥かに高品質なサービスを提供することができます。端末数が多いほど、利用者の分布の揺らぎは小さくなりますから、高精度の予測を立てて基地局を配置することも困難ではなくなります。よって、極少数の端末が突然に出現して相互通信を行うようなケースしかアドホック無線ネットワークの出番が無いことになります。これならば既にあるBluetoothの様なフルメッシュ構造の極少数の端末同士の通信システムで充分です。 シーズ側視点の理由としてはアドホック無線メッシュネットワークの方式が制御信号やデータの送信に冗長度が非常に高いフラッディング系の通信を多用している点が挙げられます。これは無線ノードの移動と無線リンクの不安定さへの対応の為です。この為、各通信リンクに対する負荷がネットワークに所属するノード数の増加に比例して増加します。無線リンクは容量が小さいこともあり、ノード数増加時のこの負荷に耐えることが困難です。この為、ネットワークに所属するノード数を増加させることができません。 この様にニーズ側からの大規模化に対する強い要請が無く、またシーズ側でも通信プロトコルのリアルタイム性を高く保ったままスケーラビリティを高めることが原理的に困難であったことから、アドホック無線ネットワークの研究開発は小規模ネットワークの研究開発にとどまり大規模化とその実用化を見据えた研究開発は行われていませんでした。 しかし、2011年の東日本大震災後、日本政府は同様の原理の超広域巨大地震である南海トラフ巨大地震が起きた場合の備えについて検討し始めました。この検討では東は富士山辺りから南は鹿児島近辺までの巨大地震と大津波による被害を予測しています。この様な状況下に固定インフラがどの程度生存し性能を保つかを正確に予測することは不可能です。 にも関わらず日本国内のほとんどの消防と警察の部隊は固定インフラが壊滅した場合を想定して整備されていません。唯一、自衛隊のみが固定インフラが無い場所に迅速に部隊を展開して活動することを目的とした装備と運用を志向して整備されています。また近年、自衛隊を管轄する防衛省内に防衛装備庁が発足し防衛装備に関する基礎研究ファンドが創設されました。このファンドでは毎年30個ほどの研究テーマが提示されていますが、その中に「移動体通信ネットワークの基礎研究」というテーマが含まれており、固定インフラに依存しないネットワークの研究が推進されようとしています。 この様に近年、日本国内に超広域災害シチュエーションへの対応という無線通信システムに対する新たな要求が出現した訳ですが、これへの対応はまだ途上であるとも言え、そして、これを実現する為の基本アーキテクチャは前に述べた小規模なアドホック無線ネットワーク研究の方面からは出てきていません。そもそも元の設計思想が違うところから出にくいと予想しております。 ところで私は神戸出身で高校一年生時に阪神淡路大震災を体験しており、震災当日、阪神淡路大震災の最大被害エリアの一つである神戸市長田区に祖母の救出に向かったという経験があります。当時の当日の情報収集や通信は非常な困難を伴った経験とその後に調査した日本で発生が予想される地震規模の予想から、固定インフラに依存しない無線メッシュネットワークの大規模化が必要な事が、そのうち世間に認識されるであろうと考えておりました。その為、ドロネーオーバレイネットワークというノードの位置を使ったスケーラビリティの高い実用性も考慮した無線アドホックネットワーク構成法とその拡張手法といった基礎研究群を十数年前から細々と研究していました。これは結果的に今の新たなニーズにそのまま適用可能な基礎研究群でした。 そこで、この度、世間が新しいニーズを認識したことを機に、今までの研究を世間の認識にフィットさせた形で整理し新しい提案を付け加えて、Inter mesh networkという新ネットワークアーキテクチャの構想を提案することに致しました。
Inter Mesh Network構成の前提
ノードの信頼性に基づくネットワークの二層構造化 本ネットワークアーキテクチャによるネットワークは現実的な運用者として、消防、警察、自衛隊、地方自治体などが単独、もしくは連携して運用することを想定しています。バッテリーの持続性やセキュリティの観点から一般ユーザの携帯端末や自家用車が超広域のネットワークの中核として動作することは想定しておりません。代わりに冗長で非構造な地理的に狭い範囲のネットワークに所属し、超広域ネットワークの局所的な転送を担う場合を想定しています。
ノード位置に基づくネットワークの構造化 アドホックマルチホップ無線ネットワークにおいて超広域のルーティングが現実的ではない一番の理由にフラッディングライクな制御プロトコルが多様されていることが挙げられます。フラッディングはノード数の増加に比例して各ノードが受けとることになる制御信号が増加します。無線リンクの帯域が貧弱で不安定であることを考えるとネットワークのサイズを大きくすることができません。しかし、例外的にノードの位置情報(ほとんどの手法は2次元空間上の位置座標)を利用して制御信号抑えるジオアシステッドルーティングという手法が存在しています。これはアドホックマルチホップ無線ネットワークの構成手法の中でもスケーラビリティの高いネットワーク構成手法です。大西が十数年前に分散構成手法を発表したドロネーオーバレイネットワークはその中でも高次元拡張が可能で100%ルーティングに成功するというそれまで発表されていたジオアシステッドルーティング手法には無い有益な特長を備えたネットワーク構造でした。そこで、本アーキテクチャは、このドロネーオーバレイネットワークを中心に据えて研究開発を行っていきます。
相互に通信が不可能な無線メッシュ網間の中継を担うルータ ノードの存在 Inter Mesh network は異方式、異所属などの理由で相互に通信が不可能な無線メッシュノード同士を結合する構想です。この為、結合されるネットワーク同士の間に入って中継を行うルータ機能を有したノードの存在を想定しています。もちろん、全てのノードがルータ機能を有したノードであってもよく、ルータ間でドロネーオーバレイネットワークを構成することで超広域に渡るルータ間ネットワークを構成します。
数万のルータ車両ノード、数十万のユーザ端末、車両用無線周波数の利用 消防、警察、自衛隊などの持つ数万の車両をネットワークの中核に据え、それらの構成員、数十万人を収容します。無線リンクは警察車両などに使われる車両用無線通信周波数を使用します。これはアンテナの高さによっては数十kmの通信が可能です。但し、そもそも無線の干渉を減らし複数の無線リンクを衝突無く成立させることが無線メッシュを利用する意義ですので無暗やたらに広範囲に電波を吹くわけではありません。
Inter Mesh Networkの超広域化に必要な二大機構
Inter mesh networkの実現には以下の二つの機構が不可欠です。
- 制御信号を抑えた超広域ルーティング機構
- 経路、格納負荷を抑えた全域への情報拡散管理機構
前者のスケーラビリティがあるルーティング機構は一般的なネットワークが備えるべき最低限の要件です。後者の全域の情報拡散機構はアクセスが集中する中央的なサーバを持つことを避け、特定の貧弱な無線リンクに負荷が集中することを避ける為の仕組みであり、集中的なサーバという基盤に代わる情報管理基盤です。データをネットワーク各所に事前にばら撒く際の経路の負荷も格納の負荷も分散されるようにばら撒く機構とネットワークの各所で局所的にデータを取得できる機構によって実現します。前者を過去に発表した迂回経路を用いたドロネーオーバレイネットワーク、後者をこれまた過去に発表したスキップドロネーネットワークを元に構成してInter Mesh Networkアーキテクチャの実現を目指します。
関連研究、関連発表
- 大西真晶,大和田泰伯,首藤一幸,“Inter mesh network用ID/ロケータ解決システムの構造評価,” 電子情報通信学会技術研究報告IA2017-78,第117 巻電子情報通信学会IA 研究会,pp.115–120 2018年3月.
- 大西真晶,大和田泰伯,首藤一幸,“Inter mesh network:無線メッシュ網間相互接続による広域網の検討,” 電子情報通信学会技術研究報告IA2017-21,第117 巻電子情報通信学会IA 研究会,pp.13–18 2017年10月.
- 大西真晶,首藤一幸,“Skip delaunay network 上の1 ホップ通知群を用いたid/locator 解決システムの検討,” 電子情報通信学会技術研究報告IA2016-111,第116 巻電子情報通信学会IA 研究会,pp.191–196 2017年3月. M. Ohnishi and H. Harai, “Delaunay overlay network construction method for super-wide area disaster situations,” 2015 10th Asia-Pacific Symposium on Information and Telecommunication Technologies (APSITT), Colombo, 2015, pp. 1-3.
- M. Ohnishi, M. Inoue, and H. Harai, “Incremental distributed construction method of delaunay overlay network on detour overlay paths,” Journal of Information Processing, vol.21, no.2, pp.216–224, 2013. S. Tsuboi, T. Oku, M. Ohnishi, and S. Ueshima, “Generating skip delaunay network for P2P geocasting,” Proc. IEEE Creating, Connecting and Collaborating through Comput- ing (C5 2008), IEEE, pp.19–28, Poitiers, France, 2008.
- M. Ohnishi, R. Nishide, and S. Ueshima, “Incremental construction of delaunay overlaid network for virtual collaborative space,” Proc. IEEE Creating, Connecting and Collaborating through Computing (C5 2005), pp.75–82, Kyoto, Japan, jan 2005.